なぎたその音楽と戯言

音を楽しむ、言で戯れる

梔子色

 

 

 

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帰って徐ろにテレビをつけて、

話し相手は売れない芸能人だけ。

煩いのは、洗濯機と隣の部屋と、

全然、乾かないドライヤーの音だけ。

漫ろ歩き、日々を生きています。

 

最近、笑わなくなったな。あの頃は、

聞いて聞いてと犬みたいな貴方が、

鬱陶しく思っていたのも懐かしい。

この頃は、寂しいよ。また気にしてよ、

私から話があるからさ。またメールして、

誤字だらけの連絡を待っています。

 

不摂生な身体を生成してしまった。形成、

愛されて心を作ってくれた恩は忘れない。

飽きた料理は、小さい箱の中。籠の中。

梅干しの大きさが次第に小さくなって、

割引きの大きさが次第に大きくなった。

愛が詰まった料理が、恋しくなっていた。

 

元気にしていますか。貴方に育てられ、

今の私がここに居ます。私が居なくなって、

どうですか。お父さんと仲良くしていますか。

喧嘩した次の日でも、手料理を出してあげて。

私から見たら、お互い様なんだから。

 

高校の時に、呼び出されて必死に謝って、

何も知らない私に、教えてくれたことを胸に。

親孝行をするから、待ってて。それでも、

未だに何が親孝行かわからないけれど、

これは自力で見つけるから、見ててよね。

だから、長生きして。私が巣立つまで、さ。

 

遠くに居ても、近くに居ても、変わりないと

思っていたのに、代わりないと想わされた。

やっぱり寂しいよ、何者にも替えられない。

私の住んでいる街は、随分と様変わって、

同じコンビニが増えて、交通量も増えて、

溜まる残業も増えて、今年の休みも帰れない。

 

元気にしていますか。貴方に育てられ、

今の私がここに居ます。私が居なくなって、

どうですか。お父さんを愛していますか。

照れた顔を見せて、それは証拠だから。

私から見たら、お互い様なんだから。

 

天辺を超えた腕時計を見て、命からがら、

終電に間に合うストレス社会を生きている。

体重が肥えた下半身を見て、胃の力が、

衰えているけど、暴飲暴食と共に生きている。

よく、思い出すな、あの甘い日々を。

いや、思い出すな、あの優しい記憶を。

 

夕暮れ時、公園の泥をつけて帰って、貴方に

怒られたのが嬉しかった。あの日の夕飯は、

カレーライスで、食べたのが脳の片隅に残る。

手を繋いで寝た空、昇った月は眩しく光った。

梔子色の月は、花のクチナシの貴方に似て、

「私はとても幸せです。」と、夢を見た。

 

元気にしていますか。貴方に育てられ、

今の私がここに居ます。私が居なくなって、

どうですか。毎日が幸せですか。

あの頃みたいな笑顔を見せて、幸せ者。

私から見たら、お互い様なんだから。

 

何だかんだ、連絡はお父さんの話ばかり。

嫌も嫌も好きのうちなんだから、もう。

もうすぐだよね。記念日、何周年だっけ。

大人になって分かったよ。愛することを。

今になって、どうして好きになったかを。

ふたりみたいな夫婦になるのが夢です。

 

拝啓、元気にしていますか。

 

 

 

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